「歌舞伎特選DVDコレクション」93号は「土蜘」で、平成29年(2017年)12月に歌舞伎座で行われた公演が収録されている。本編81分。音声ガイドが収録されている。
叡山の僧智籌実は土蜘の精に尾上松緑さん、源頼光に坂東彦三郎さん、侍女胡蝶に中村梅枝さん、坂田公時に中村萬太郎さん、巫女榊に坂東新悟さん、太刀持音若に尾上左近さん、石神実は小姓四郎吾に坂東亀三郎さん、碓井貞光に市村橘太郎さん、渡辺綱に中村松江さん、番卒藤内に坂東亀蔵さん、番卒次郎に片岡亀蔵さん、番卒太郎に河原崎権十郎さん、平井保昌に市川團藏さんの配役。マガジンの表紙に掲載されていないが、卜部季武を市川弘太郎(現・市川青虎)さんが勤めている。(なお、音声ガイドでは「ひろたろう時代の市川青虎」と説明されているけれど、正しくは「こうたろう時代」)。
この演目は謡曲の「土蜘蛛」をもとにした長唄の舞踊劇で、明治14年(1881年)に五世尾上菊五郎によって初演された。
明治時代に作られた舞踊劇なので、定式幕ではなく緞帳が使われる。緞帳が上がると、まずは源頼光の館で、頼光は病に臥せっている。そこへ、平井保昌が見舞いに訪れる。そして、入れ替わりに侍女胡蝶が薬を持参し、頼光の希望に応じて都の紅葉の名所の景色を舞う。中村梅枝さんによる胡蝶の舞が最初の見どころ。
いつの間にやら花道に怪しい姿が現れる。(僧智籌の登場時には拍手をしない)。尾上松緑さん演じる智籌は、頼光の病気平癒の祈祷のためにやって来たと言い、修業時代のあれこれを舞で見せる。頼光は祈祷を頼むも、その影が怪しい蜘蛛の姿であることに音若が気付き、智籌が頼光に襲いかかる。頼光は源氏の宝刀・膝丸で応戦、智籌に一撃を与え、智籌は消えてしまう。保昌が駆けつけ、血の跡をたどって蜘蛛を追う。松緑さん演じる不気味な僧智籌の舞や、二畳台の上で数珠を用いての「畜生口の見得」が見どころ。また、上演当時11歳だった尾上左近さんの子役の映像も貴重だ。
場面変わって、館の庭。番卒たち、そして、巫女の榊や石神実は小姓の四郎吾のコミカルな舞が気分転換となる。
最後に、東寺の裏手の古塚。蜘蛛と保昌そして四天王とのバトルが行われる。松緑さんが放つ蜘蛛の千筋の糸を、あっという間に後見が回収する様子も見どころの一つ。遂に蜘蛛は退治され、瀕死の蜘蛛を中心に形を作って幕となる。
長唄の歌詞の一部はマガジンに掲載されている。音声ガイドと合わせて、歌舞伎舞踊になじみがない人も十分楽しめる内容になっている。
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