「歌舞伎特選DVDコレクション」32号は「黒塚」で、平成31年(2019年)4月に歌舞伎座で行われた公演が収録されている。 本編71分。なお、音声ガイドは入っていない。
老女岩手実は安達原の鬼女に市川猿之助さん、山伏大和坊に中村種之助さん、山伏讃岐坊に中村鷹之助さん、強力太郎吾に市川猿弥さん、阿闍梨裕祐慶に中村錦之助さんの配役。そして、マガジン内に記載されている配役には、後見の市川寿猿さんの名が出演者と同じ大きさの文字で記されている。
この作品は能の「黒塚」(観世流では「安達原」)を元にして作られたもので、昭和14年(1939年)に二世市川猿之助の老女岩手にて初演された。
上の巻は能を模倣した「能掛かり」の手法、中の巻は新舞踊の形式、下の巻は歌舞伎の様式と、趣の異なる三部で構成されている。昭和に作られた作品のため、台詞は分かりやすいが、長唄は慣れていないと聞き取りにくいかもしれない。マガジンには一部だが重要場面での歌詞が掲載されている。
上の巻は、岩手が枠桛輪(わっかせわ)という糸車で糸を紡ぎ、身の上話を語る場面が重要なところ。糸車を猿之助さんの岩手に渡す裃後見の寿猿さんの姿が、髪の毛も黒々としていて若々しい。
一番の見どころは中の巻での猿之助さんの舞踊。特に月明かりの下に自分の影と戯れる姿は独特で、照明の変化も合わせて楽しめる。また、逃げ惑う太郎吾を演じる猿弥さんの身体能力にも感心させられる。
下の巻では、鬼女となった岩手と阿闍梨たちとの攻防が繰り広げられ、見応えがある。特に、猿之助さんが花道で見せる「仏倒れ」は必見。
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