「歌舞伎特選DVDコレクション」74号は「近江源氏先陣館 盛綱陣屋」で、平成28年(2016年)11月に歌舞伎座で行われた公演が収録されている。本編111分。音声ガイドが収録されている。
佐々木盛綱に中村芝翫さん、篝火(かがりび)に中村時蔵さん、伊吹藤太に中村鴈治郎さん、早瀬に中村扇雀さん、信楽太郎に市川染五郎(現・松本幸四郎)さん、四天王に中村萬太郎さん、四天王に市村竹松さん、四天王に尾上右近さん、四天王に大谷廣太郎さん、小四郎に尾上左近さん、古郡新左衛門に坂東秀調さん、竹下孫八に坂東彌十郎さん、北條時政に坂東彦三郎(現・楽善)さん、微妙(みみょう)に片岡秀太郎さん、和田兵衛秀盛に松本幸四郎(現・白鸚)さんの配役。襲名披露興行らしい、豪華な配役で上演された。
「近江源氏先陣館」は近松半二ほかによる作品で、明和6年(1769年)に人形浄瑠璃として初演され、歌舞伎に移された。大坂の陣を題材に、徳川と豊臣の対立を鎌倉時代に置き換え、源頼朝没後の鎌倉方と京方の争いとして描いている。北條時政は徳川家康、源頼家は豊臣秀吉、佐々木盛綱は真田信幸、佐々木高綱は真田幸村を暗示し、北條政子の実子である源実朝と祖父の北條時政たち鎌倉方が徳川方、源頼家たち京方が豊臣方になる。
鎌倉方(徳川方):源実朝、北條時政(徳川家康)、佐々木盛綱(真田信幸)
京方(豊臣方):源頼家(豊臣秀吉)、佐々木高綱(真田幸村)
話が入り組んでややこしいので、事前にマガジンであらすじを押さえておく方がお芝居を楽しめる。
映像が始まってまず目を引くのが、佐藤可士和さんによるモダンでカラフルな襲名祝幕。この幕が開くと、一転、鎌倉時代の武士の世界となった。
佐々木盛綱と弟の高綱は敵味方に分かれて戦っており、盛綱の子・小三郎が高綱の子・小四郎を捕らえる手柄を立てて陣屋へ戻ったところから物語は始まる。
家族愛と忠義の間で盛綱は甥の小四郎に切腹させる決断をし、母であり小三郎・小四郎の祖母である微妙に小四郎を切腹させるよう依頼する。なお、微妙は「菅原伝授手習鑑 道明寺」の覚寿、「本朝廿四孝」の越路(もしくは「輝虎配膳」の越路)とともに、「三婆」と呼ばれる老女の大役の一つ。
矢文をめぐる盛綱の妻・早瀬と高綱の妻・篝火のやりとりや、母会いたさに小四郎が逃げようとする場面があり、高綱が討死したという知らせが入る。やがて、首桶を持った北條時政が陣屋に来て、最大の見せ場となる首実検となる。
首桶が開けられるや否や、父の命に従って自ら切腹する小四郎の左近さんは、当時まだ10歳。立派に演じていた。また、小四郎の切腹を見て高綱の計略を理解したことを全身で表現する芝翫さんの演技も素晴らしいものだった。
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