「歌舞伎特選DVDコレクション」107号は「義経千本桜 吉野山」で、平成29年(2017年)1月に浅草公会堂で行われた公演が収録されている。本編60分。音声ガイドは収録されていない。
配役は、佐藤忠信実は源九郎狐に尾上松也さん、早見藤太に坂東巳之助さん、静御前に中村壱太郎さん。
「吉野山」は、全五段からなる人形浄瑠璃の「義経千本桜」のうち、四段目の口にあたる「道行初音旅」を歌舞伎舞踊に移されたもの。文楽では義太夫での上演だが、歌舞伎舞踊は清元と竹本(義太夫)の掛け合いとなっている。(竹本のみでの上演もある)。マガジンには歌詞の一部が掲載されている。
尾上松也さん、中村壱太郎さん、坂東巳之助さんによる溌剌とした舞踊が楽しい。
通常、道行は恋仲の男女の旅姿が描かれるが、「吉野山」では静と忠信は主従、そして、人間と狐(松也さんは時々狐らしい仕草を見せる)という対等ではない関係。だが、忠信が男雛、静が女雛の姿を決めるところが一つの見せ場になっている。この場面の写真がマガジンに掲載されていないのが残念だ。(また、忠信が源義経から拝領した鎧と、静が義経から預かった初音の鼓で、義経の姿を見たてる写真も掲載されていない)。
後半は忠信による源平合戦の物語が見どころ。そして、巳之助さんの早見藤太と花四天たちが登場して立ち廻りとなる。忠信実は源九郎狐の活躍で静御前を守り、二人は先を急いで幕となる。(四段目切、川連法眼館へ続く)。
浅草公会堂には花道にすっぽんの設備がないので、静の壱太郎さんが本舞台に立って、一旦場内が暗転、明かりが点くと花道に忠信の松也さんが立っているという演出になっている。(通常、忠信はすっぽんから登場する)。「吉野山」はよく上演されているのに、あえてこの公演をシリーズに収録したのはなぜなのだろう?
コメント