「歌舞伎特選DVDコレクション」95号は「松竹梅湯島掛額(しょうちくばいゆしまのかけがく)」で、平成31年(2019年)1月に歌舞伎座で行われた公演が収録されている。本編86分。音声ガイドは収録されていない。
紅屋長兵衛に市川猿之助さん、八百屋お七に中村七之助さん、母おたけに市川門之助さん、長沼六郎に中村松江さん、若党十内に大谷廣太郎さん、同宿了念に中村福之助さん、友達娘おしもに澤村宗之助さん、下女お杉に中村梅花さん、釜屋武兵衛に中村吉之丞さん、月和上人に澤村由次郎さん、小姓吉三郎に松本幸四郎さんの配役。
「松竹梅湯島掛額」は、文化6年(1809年)に初演された「其往昔恋江戸染(そのむかしこいのえどぞめ)」の「吉祥院の場」と、安永2年(1773年)に人形浄瑠璃として初演され、後に歌舞伎化された「伊達娘恋鹿子(だてむすめこいのひがのこ)」の「火の見櫓の場」を、河竹黙阿弥がつなぎ合わせて脚色したもので、安政3年(1856年)初当時の外題は「松竹梅雪曙」だった。
序幕の「吉祥院お土砂の場」は理屈なく楽しめるドタバタ喜劇。吉祥院の小姓吉三郎と八百屋の娘のお七の恋物語に、紅屋長兵衛、通称紅長(べんちょう)が絡んで大騒ぎとなる。
幕開き、時代設定が鎌倉時代のため源範頼が攻めてくるので吉祥院に逃げてきた、という場面から始まるが、ここでのマニアックな見どころは、昭和4年(1929年)4月17日生まれの坂東玉之助さん演じる友達娘おかつ。上演当時89歳で振袖姿の町娘を演じることができるのが、歌舞伎役者さんの凄いところ。
市川猿之助さん演じる紅長、市川猿さん演じる丁稚長太や中村松江さん演じる長沼六郎、そして、中村吉之丞さん演じる釜屋武兵衛が同じ(ような)台詞をしゃべって同じ(ような)動きをする「おうむ」や、中村福之助さん演じる了念がご飯を食べる場面でお米のブランドを数多く盛り込んだ台詞を言う、歌舞伎らしい演出で笑いを誘う。さらには、2018年に話題になった「ハズキルーペ」のコマーシャルのパロディや 、NHK のキャラクター・チコちゃんの決め台詞を取り入れ、時代の流行を取り入れることも忘れていない。
この演目の前半最大の見せ場は、ふりかけられると体がぐにゃりとなる白砂「お土砂」を紅長がふりかけ回って、登場人物が次々にぐにゃぐにゃと倒れていく幕切れ近く。今回は、附打さんも「お土砂」をふりかけられてぐにゃぐにゃに。大騒動のうちに紅長はお七たちを連れて花道を去っていく。
続いて、大詰「四ツ木戸火の見櫓の場」。一番の見どころは、お七演じる中村七之助さんの「人形振り」。人形浄瑠璃の人形のように、人形遣いに扮した黒衣に操られているかのように動く。七之助さんと黒衣たちのチームワークが見事だ。
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