歌舞伎オンデマンドで「荒川十太夫」を観た。歌舞伎美人での上演時間は 12:40-1:43 1時間3分で、配信は1時間4分だった。
配役は、荒川十太夫に尾上松緑さん、松平隠岐守定直に坂東亀蔵さん、大石主税に尾上左近さん、杉田五左衛門に中村吉之丞さん、泉岳寺和尚長恩に市川猿弥さん、堀部安兵衛に市川猿之助さん。
この演目は、講談の「荒川十太夫」を、講談が好きな松緑さんが新作歌舞伎として上演するもの。最近の新作歌舞伎は、絵本から「あらしのよるに」、「えんとつ町のプペル」、漫画・アニメから「ワンピース」、「NARUTO」、「風の谷のナウシカ」、ゲームから「ファイナルファンタジーX」と現代の作品を元にしているものが多いけれど、同じく古典芸能の講談を舞台化するのは珍しい。
ちなみに、講談が原作の歌舞伎の演目としては、今年4月に歌舞伎座で上演された「天一坊大岡政談」(松緑さん、猿之助さん出演)や、「天衣粉上野初花」(「直侍」・「河内山」)などがある。
「荒川十太夫」は、赤穂義士である堀部安兵衛の切腹の際に介錯を行った、伊予松平家の下級武士・荒川十太夫の苦悩と覚悟を描いたもの。
松緑さんの荒川十太夫は、その役柄から派手さはないものの、この話を歌舞伎化したいという強い思いもあってか、気持ちが滲み出る演技だった。切腹の日の回想として登場する堀部安兵衛の猿之助さんは、逆に控え目な押さえた演技。同じく切腹の場に向かう大石主税は、松緑さんの息子の左近さん。大石主税の年齢に近い実年齢でこの役は、運命かと思えるような巡り合わせだ。よく通る声と繊細な演技の亀蔵さん、堅実な芸をみせる吉之丞さん、芸達者な猿弥さんが脇を固める。
講談は言葉の力で時空を自由に行き来できるけれど、実際の舞台となると、現在進行形の出来事と過去の出来事を短時間の切り替えで表現するのはなかなか難しい。切腹の日の回想は、すっぽんやせりといった舞台機構を上手く使って芝居を作っていた。
今回が初演の新作歌舞伎だけど、真山青果の作品を観ているような錯覚を覚えた。真山青果による「元禄忠臣蔵」の「大石最後の一日」が細川家での出来事、「荒川十太夫」が伊予松平家での出来事と、赤穂義士切腹の日(および、後日談)のドラマとして並べてみても遜色ない。
今後の再演が楽しみな演目だった。
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