「歌舞伎特選DVDコレクション」57号から60号は、4号にわたって平成21年(2009年)11月に歌舞伎座で行われた「仮名手本忠臣蔵」が収録されている。57号は「大序・三段目」で、本編106分。音声ガイドが収録されいる。
高師直(こうのもろのう)に中村富十郎さん、塩冶判官(えんやはんがん)に中村勘三郎さん、足利直義に中村七之助さん、顔世御前に中村魁春さん、桃井若狭之助に中村梅玉さんの配役。
「仮名手本忠臣蔵」は、赤穂事件を「太平記」の南北朝時代の物語に設定し、寛延元年(1748年)に人形浄瑠璃として初演されたものを歌舞伎に移したもの。
赤穂事件:元禄14年(1701年)3月14日江戸城松の廊下で赤穂藩主の浅野内匠頭長矩(あさのたくみのかみながのり)が、吉良上野介義央(きらこうずけのすけよしひさ)に斬りつける事件が起こった。内匠頭は即日切腹のうえお家お取り潰し、対して上野介はお咎めなしとなった。翌年12月14日、家老だった大石内蔵助(おおいしくらのすけ)以下47人の浅野家旧臣が吉良邸に討ち入り、上野介の首を取った。
「仮名手本忠臣蔵」では、浅野内匠頭を塩冶判官、吉良上野介を高師直に置き換え、大石内蔵助を大星由良助と名を変えている。
「大序」は様式性が高い一幕。お芝居の前に、定式幕の前に口上人形が登場して、役人替名(やくにんかえな:配役)を知らせる。「大序」だけでなく、それ以後の主な配役を述べるので、10分少々口上人形の見せ場が続く。はじめはゆっくりと、次第に早く鳴らされる柝に合わせて定式幕が開くと、登場人物は皆首を垂れて座っている。浄瑠璃に合わせて一人ずつ動き出し、お芝居が始まる。
中村富十郎さん演じる高師直は、パワハラ・セクハラ全開のとんでもない上司。中村梅玉さん演じる桃井若狭之助が師直を斬ろうとするのを押しとどめるのは、中村勘三郎さん演じる塩冶判官。「三段目」になると、若狭之助と塩冶判官の立場が入れ替わる。
「三段目」前半は足利館門前進物の場。坂東橘太郎(現・市村橘太郎)さん演じる鷺坂伴内と中間(ちゅうげん)たちによる、加古川本蔵を斬る稽古の「エヘン」「バッサリ」というコミカルな場面のあと、尾上菊十郎さん演じる加古川本蔵が進物の品を持って登場する。賄賂で伴内の態度は一変、そして、物語はクライマックスの足利館松の間刃傷の場、通称「喧嘩場」へ。
「進物場」と「喧嘩場」の舞台転換では、大道具さんが丸めてある上敷(じょうしき:長いゴザ)を投げるようにして舞台の端から端まで敷き詰める、「出投げ」と呼ばれる作業が行われる。これも見どころの一つ。
松の間にやってきた若狭之助は師直を斬る気でいたが、賄賂を受け取った師直に平身低頭で謝られ、立ち去っていく。入れ替わるように、判官がやってきて、師直の矛先が判官に向けられる。折り悪く、師直に顔世御前の断りの返事が渡され、師直は判官を罵倒し続ける。遂に、判官は師直を斬りつけてしまう…。
文楽では「仮名手本忠臣蔵」の通しを観ているけれど、歌舞伎の舞台では大序からの通しはまだ観たことがない。このコロナ禍、そして、関西での歌舞伎の上演が減っているものの、いつの日か松竹座で大序からの通し上演を観てみたい。
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